私の日本地図9 瀬戸内海III 周防大島|宮本常一/著|
この本はタイトルにあるように、『私の日本地図』全15巻中の第9巻。復刻第1号として刊行されたものであり、昭和46年に発売された物の新装版となる。書店で見つけた当時、こんな本があるのかと、馴染みの薄い島だったが購入した。理由はなんといっても掲載写真の多さ。310枚もの写真が掲載されているが、後に刊行された『瀬戸内海II 芸予の海』と違い、撮影年月日が記載されていないのが、残念なところ。それでも、貴重な記録写真を多く見られることに充分魅力を感じる。周防大島に馴染みがなくとも、民俗学者ならではの視点で巡る島の紀行文として、充分楽しめる内容ではないだろうか。島の東部を重点的に取り上げ、島の生活を丁寧に拾い上げ、その背景を探る旅。ゆかりのある人には懐かしく、知らない人には新鮮に感じられるはず。周辺の島として、笠佐島、前島、浮島、立島、沖家室島、大水無瀬島、乙小島、片島、情島についての記述がある。浮島、沖家室島、情島については頁数も比較的多く、島歩きでの参考になる。島に点在する集落それぞれに、そこで生きた人々が積み重ねてきた歴史がある。それを知ることで、風景は人が作るということを改めて強く感じた。今では消えてしまった島の風景、生業や生活。その欠片を探しに大島へ行ってみたくなる。
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私の日本地図9
瀬戸内海III 周防大島
著者/宮本常一
出版/未來社
本体価格/2200円(税別)
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里海の生活誌 文化資源としての藻と松|印南敏秀/著|
何とも難しそうなサブタイトルが付いているが、要は沿岸部や島嶼部に住む人達が、藻と松をいかに上手く利用して生活してきたかということが書かれている。取り上げられている地域は、著者との縁が深いという三河湾と瀬戸内海の二つの内海。関わりが無さそうだが、里海としての共通点が多いのだという。本の内容は、里海と生活誌・藻と松の生活文化・島の生活文化と大きく三つに分けて構成されている。藻と松の生活文化第2章島嶼の藻では、向島、因島、佐木島。島の生活文化には、高根島、生口島、佐島、弓削島、怒和島、中島、周防大島の記述があり、島の本として紹介できると判断した。読んでいて興味を惹かれるのは、やはり島の生活。畑の土壌改善、肥料にする藻(アマモ・ホンダワラ)を求め、島の農家が農船を操り広範囲を移動していた事実は新鮮な驚きだった。また聞き書きには、藻と松だけでなく遊漁の話もあり、島の生活を伺い知ることができるのも良い。同意語の注釈が若干不親切であることや、図案・写真がもう少し掲載されていればという不満点もあるが、民俗資料館を素通りできない人には面白く、そうでない人には瀬戸内海の新たな切り口を提供してくれる一冊。里山が見直される昨今、里海についても知っておくべき事があるのではないだろうか。
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里海の生活誌
文化資源としての藻と松
著者/印南敏秀
出版/みずのわ出版
本体価格/2800円(税別)
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漂海民|羽原又吉/著|
1963年初版の古い本。アンコール復刊ということで目に留まった。島の本とは言えないが、瀬戸内海を見続けていれば行き当たる、漁村と家船の成り立ちの一端を知ることができる。1章漂海民の定義、2章漁業の発達。3章漁民の移動では造船技術の発展も紹介。それと共に行動範囲が広がる過程を知る。4章で海士・海女の移動生活、5章アマと家船との関係まで、興味深く飽きることなく読むことができた。また8・9章では東南アジア、中国の漂海民も合わせて紹介されていて、視野はアジアへと広がる。最も読みたかった6章瀬戸内海の家船と7章九州の家船。船で暮らすと言っても、水・薪の補給、物々交換の為に陸に上がる。同じ家船でも、藩や根拠地と家船の結びつきが強い九州に対して、親村(根拠地)から出漁先に居着くことで枝村が広範囲に数多く増えていった瀬戸内。その性質の差を知ることができ面白い。漁の腕前を頼りに、権利も無いが社会的制約に縛られることなく暮らしていた漂海民。その生活や家船に興味を持った人は、一読してみては如何だろう。
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漂海民
著者/羽原又吉
出版/岩波書店
本体価格/740円(税別)
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